Bluelight Sonata

2022-08-29

#15 異物 | 根暗草子

With overlooking fireworks blooming in the metropolitan area, Tokyo, Japan.

「趣味は『人間観察』です,と言う奴は信用できない」という根拠レスな言説を見かけたのは10年くらい前の2chだったか.人格形成期に2chを見ていたせいでこういう偏見が微妙に身体に染み付いている.

いやしかし,「趣味」が人間観察と言う奴は,信用できないとまでは言わずとも,ソリが合わないとは思う.


どういうことかと言えば,自分にとっての人間観察は趣味とかそういう次元のものではなくて,気質に近い.

基本的にソロ活動が多いので──どころか休みの日の行動のほとんどがソロなのだが──,電車に乗っていてもレストランで食事をしていても,意識を向ける特定の相手が存在しない.端的に言うと会話の相手がいない.

従って,向き先を失った意識は不必要に拡散して,周囲の人間に対して無駄に注意が向く.何も見ていない虚ろな目をしているように見せかけて,多分周囲が思っている以上に環境に対して不必要に細かいレベルで敏感になってる.階段で少し先を下っている人の閉め忘れたリュックのチャックや,ちょっと見えてしまった隣の人のスマホの充電の残りとか,向かいに座る人の着けているマスクのメーカーとか.

仕事でも「話聞いてないようで聞いてる」とか「意外と細かいところまで見てる」と評されやすいのはこの辺りに起因する.


これ自体は直接的に困るような気質ではないのだが,自意識が肥大化するという副作用がある.

つまり,「他人のことなんてみんなそこまで気にしてないよ(だから他人を気にせず好きにすればいいよ)」というロジックが成立しなくなる.だって,自分はそこまで見てるんだもの.「自分が相手ならどうするか」という見方をすれば,逆に自分のあらゆるところが「気づかれて」いる感覚に陥らざるを得ない.

「友達のいない根暗陰キャだから内側に閉じこもる思考のせいで自意識が肥大化する」なんてのは大間違いで,全くの逆で,外に無作為に拡散した意識の副作用として自意識が肥大化する,というのが自分のパターンだと思っている.


肥大化した自意識は,被害妄想にも似た異物感を感じさせてくれる.「あいつ,(ふさわしくないのに)なんでこんなところにいるんだ」,と思われているような.実際は視界に入れど意識は向いていないのだが.オシャめのカフェとかを異様に嫌うのはこれが理由だった.

……理由だったのだが,以前に書いた「インフルエンザワクチンの在庫を探して見つけた病院に行ってみたら婦人科メインの内科だった」事件の待合室で感じた強烈な異物感がショック療法になったのか,最近異物感を感じるのが愉快で仕方がない.

以来,二十云年生きてきて到底したことがないような行動に大胆にも打って出ることが増えた.典型的な例として,思いつきで表参道の美容室に行った.この時感じた異物感は婦人科事件にも匹敵するなかなかのものだった.表参道のコンクリ打ちっぱなしっぽいオシャな内観の美容室で,ぽつんとキモオタが座っているという情景は──繰り返しになるが周りの人は実際にはそんなことを気にしていないのだが──,異物感を楽しめる今となっては愉快で仕方がない.

ちなみに表参道だけあって価格水準がぶっ壊れていたので,金銭的に割に合わなくなって最近は西荻窪に落ち着いている.こちらもオシャな店を敢えて選んで異物感を楽しんでいる.


最近たまに,これまでは行かないであろう店に謎に訪れたりしているのには,こういう背景がある.行動半径が広がって,別に損はしていないし,異物感というある意味で悪趣味な楽しみもできたし,無駄に肥大化した自意識も悪いものではないな.

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