#12 俗終 | 根暗草子
また懲りずにアテもなく大阪に行って,東横インで明日はどうしようかと少しだけ悩み選んだのは地味に未踏の和歌山県.
和歌山県で行きたいところと言うと,潮岬や熊野には行ってみたいと思っていたが,如何せん大阪からふらりと行くにはあまりに遠すぎる.
「和歌山 観光地 最強」とか調べてヒットしたところのうち,大阪から思いつきで行って,帰ってこれる場所.選ばれたのは高野山でした.寺社仏閣の観光は苦手だけれど,他にいい選択肢がなかった.
難波から急行に揺られること2時間,辿り着いたのは俗世と聖域を区切ると言われる極楽橋.南海線の終着にしてケーブルカーへの乗り継ぎ駅なのだが,俗世の果てだけあってコンビニすらない.
ここから先は聖域なので,俗世の唾棄すべきあれこれはかなぐり捨てて行かねばならぬ,そういうところだ.かなぐり捨てるのは例えば,乗車時間が長いのでボックスシートに陣取っていたら,他にも席は空いているのに同じボックスにおばさん軍団が乗り込んで来て,こいつら頭おかしいんじゃないかと思った怒りとか.始発から終点まで2時間ぶっ通しで見知らぬおばさん集団と相席する形になり普通に地獄だったぞ.
ケーブルカーとバスを乗り継いで向かうは高野山,いつもの如くまったくのノープランでここまで来ているが,こういうところは大体ちゃんとした観光マップがあるので,それに従って歩いていればとりあえず観光スポットは抑えられるようにできている.
言ってしまうと,そこに教養は何ら必要ない.必要ないのだが,教養がないとわざわざこんな山奥の寺院まで来る意味はないな,というのはある.
……なんて思いながら奥の院を歩いていて,ようやく自分が寺社仏閣の観光が苦手な根本原因はそこにあろうということに気づく.
直截的に言えば,自分はその方面に対する教養が根本的に欠けている.高校のときに日本史を選ばなかったというのがここで効いてきた.最後に日本史を勉強したのは中学生のときで,それも「空海・高野山・金剛峯寺.最澄・比叡山・延暦寺」とかテストに出てくるところを空で暗記する作業をしていただけで,その背景にある思想とか,歴史とか,そういうものは全く知らない.
そういう状態でここを歩くのは,言ってしまえばチンパンジーがスタンプラリーしてるのとほぼ同じだな,という自虐的な気持ちが故に寺社仏閣の観光は楽しめないらしい.
奥之院参道には過去の偉人の墓碑がたくさんあるのだが,その偉人の名前も,かつて単語帳で覚えた単語として薄っすらと記憶には残っていて,それでも一体その偉人がなぜ偉人足り得たのかは,やはり知らない.
おびただしい数の石塔がそれぞれに,お前は教養はなくマップに書いてあるスポットをただエモい構図を求めて這いずり回るチンパンジーなのだ,ということを改めて突きつけてくるという構図,これはなかなかにつらい.
絶妙に自分の俗さを突きつけられて寺社仏閣が楽しめないのだとようやく理解した瞬間,もう帰りたくなってしまって,そのままちょうどやってきたバスに飛び乗ってそのまま大阪に戻った.よって,高野山に行き,金剛峯寺の200mのところまで来たのだが,金剛峯寺の本坊には入っていない.多分,もう行くこともないだろう.