Bluelight Sonata

2021-02-20

#02 性格遺伝という毒 | 根暗草子

In Nishi-Ogikubo, Suginami, Tokyo.

散歩していたら2台の自転車に追い抜かれた.1台目は幼稚園か小学校低学年くらいの子供で,続く2台目はそのお母さんというパーティー.なんてことのない親子連れに意識が向いたのは,1台目の子供がやたらと速い速度で自転車を漕いでいたから.それでいて大した速度が出ないのはギアを一番軽くしていたからだろう.

傍から見たらその漕ぎ方があまりにシュールだったのでなんとなく意識を向けていた.すると2台目を走る母親はどうも漕ぎ方が気に食わないらしく,あるいはただ虫の居所が悪かったからなのか,なかなかの剣幕でそんな漕ぎ方はやめるように食って掛かっていた.

半ば怒鳴られても子供のほうはどこ吹く風で返事もせずに自転車を漕いでいた.それを見た母親のほうはと言うと,堪忍袋の緒どころか親子の縁まで切るんじゃないかって勢いで怒り始めて,子供に対してこう言った.「返事くらいしなさいよ,あんた性格悪いよ」.


叱るときに「性格悪い」を持ち出すのは斬新だと思った.「危ない」とかではなく「性格悪い」.最近のネット風に言うなら「それあなたの感想ですよね」でしかない言説ではある.

「あなたの感想ですよね」は議論における裏付けのない主張を揶揄する表現で,議論という文脈では「あなたの感想ですよね」と言えたほうが勝てる流れになる.一方で日常会話の文脈では,それは特に何かに裏打ちされたロジックではなく「あなたの感想」であるが故に打ち崩すことができない.どれだけデータを持ち込んだところで「でも私はこう思いました」と言われたらそれまでだから.


であるが故に件の子どもは黙り込んだ.何をどう言ったところで「母親が自分を性格悪いと思った」というn=1の事実だけは確定した.それは人間関係において家族の比重が高い小さな子どもにとってあまりに残酷だと思うし,子供もいなけりゃコミュ障のこちらから見ていてすら教育として悪手だろうと思った.

だいたい,この状況で「性格悪い」なんて叱り方をするほうがよほど性格が悪い.意識的にか無意識的にかは知らないが,反論すら封殺してただただ傷つけるだけの叱り方をする,どういう教育を受けたらそんな親になれるんだ?


件の子どもはあのお叱りをどう受け止めたんだろう.案外こういうものの積み重ねがトラウマティックなものになって,「性格が悪い」と言われたからこそ性格が悪くなってしまうんじゃないだろうか.もっと言うと「性格悪い」と叱った親も遠い昔に「性格悪い」と叱られてきた立場なのかもしれない.

叱られた彼には「性格悪い」は遅効性の連鎖する毒を彼の世代で止めてほしい.そのためにも彼には是非,強く生きてほしいと思う.とりあえず「性格悪い」と叱られたら「遺伝でしょ」と言い返せるくらいには.

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