Bluelight Sonata

2022-10-20

もうピアノの音は聞こえない

Winter is in the air. Looking up at the dying leaf, Sorachi, Hokkaido.

また実家に帰ってきた.

帰省の頻度が上がって以来,帰省のたびの”実家界隈What’s new”はさほど多くもなく,せいぜい庭に植えたピーマンがよく育っている,とかよくわからない近況を聞かされることが多かった.

ところが今回は何かと言うと実家にあるアップライトピアノを処分する,というそこそこのビッグニュースが飛び込んできたのでびっくりした.


自分が小学校低学年くらいのときに買ってもらったピアノなので,2002年とか.早いものでもう20年近く前の話になる.だいたい前半の10年は自分が,後半の10年は妹が,それぞれピアノの練習に使ってきた.

自分も妹も同じピアノの先生にお世話になっていて,これまた20年来の付き合いということになるのだが,先生は体調を崩し,兄より根気強くピアノを習い続けていた妹も潮時,ということになったらしく,ついに家でピアノを使う人がいなくなった.ダメ押しにいつもピアノの調律を頼んでいた調律師さんも身体を悪くして引退,ということでピアノを手放すことになった.

大学卒業くらいから,身近な人に露骨に老いが見られるようになって,何とも言えないマイルドなショックを受けることが増えてきたけど,そうか先生も最初に会ったのが20年も前なんだから,そういうこともあるのかな,と,一抹の悲しさを感じた.


そんなこんなで長いことお世話になったピアノを弾けるのもこれが最後.

ピアノを習っていた当時の楽譜を引っ張り出してきて,思い出すように,リハビリをするように少しだけ弾いてみる.ソナタはちょっと厳しい,ソナチネも難しいけど,音をこぼしつつなら,なんとか.

昔使っていた楽譜だけあって,当時練習していた曲には書き込みがたくさんあって.八分休符を囲む丸と共に「止める」と書かれていて,そういえば先生にそう言われたな,なんて思い出しつつ,当時の記憶を思い起こすように.


次の帰省からはあのピアノを弾くこともなければ,妹が弾いているピアノを聴くこともできないし,もう実家からピアノの音は聞こえない.

けれど,楽譜だけはそのまま残しておいてもらうことにした.いつか,買う買う詐欺の電子ピアノを本当に買って,またピアノを弾く機会ができたときに,またあの楽譜の記憶を辿って練習できるのなら.