東京の空から
2020年の春から羽田空港の新着陸経路の運用がはじまった.経路直下に住む人々は騒音や落下物の危険性などから一部反対する向きもあるし,実際のところそれも理解できるのだが,自分自身が飛行経路直下に住んでいるわけではないので,所詮他人事だ.なので,こうして呑気に新経路を飛ぶ飛行機を見物して楽しんでいる.
南風が吹く日の午後,着陸経路は東京湾岸上空を飛ぶルートから都心上空を飛ぶルートに切り替わる.この時使われる2本の滑走路どちらに着陸するかによって経路は違うけど,おおよそ新宿,渋谷,六本木あたりの上空を降下してくることになる.直下には東京都庁,左手には六本木ヒルズ,東京タワー,そして遠くには東京スカイツリーが見えるこのルートは,機窓に東京のすべてがあると言っても過言ではない.
10年以上前,長期休暇の度に東京に遊びに来ていた頃.今は沖合にある4本目の滑走路もなくて,北海道から羽田に飛来する飛行機から見る機窓からは東京湾と湾岸の工業地帯が見えたのを今でも思い出せる.
今思えば都市型空港の羽田と郊外型空港の新千歳を比べるのはフェアじゃないけど,敷き詰められる工場と遠くにビル群が見える羽田の機窓と,謎の湖と森,畑しかない新千歳のそれがあまりに対照的すぎて,小さい頃からいつの日か北海道を出る夢を植え付けられてしまった.
東京にはあれからも数多の高層ビルが生えて,それを見下ろしながら飛ぶ東京の空はあの時以上に刺激的な魅力に溢れていて.今まさに,あの日の自分のように東京に憧れる地方の少年少女が自分の上空600mを飛んでいるのかと思うと懐かしさすら感じてしまう.
しかしまあ,この調子だから東京一極集中へのアンチテーゼなんてものは,到底実現すると思えないのだが.この東京の空を超える何かを彼らに見せる余力はもうどこにもないのに.