blend in | 傘の下でバウヒニアが薫る
香港は運転マナーがまあまあ悪い.非常に悪いわけではないが,基本的に車の速度が日本のそれより一回りは速い.ビクトリア・ピークに向かう時にピークトラムの混雑を避けて路線バスに乗っていったら,山頂に向かう山道を頭文字Dの山攻めみたいな運転で駆け上っていったので,盛大に乗り物酔いして吐きそうだった.フェリーに乗る予定がなく,酔い止めを持ってきていなかったので非常に難儀した.
そういう交通事情なので,道路を渡るときはそれなりに気を使う.右見て,左見て,右見たら,さっきは居なかったはずの爆速のタクシーが突っ込んできている.危ねえ.
香港は一方通行の道も結構あって,どちらから車が来るのかも良くわからずに中々にビビッていたのだが,道路に「望左」とか「望右」と書いてあることに気づいてからはだいぶ楽になった.これに沿って気をつけておけば,だいたい大丈夫だ.ただし逆走車がいる場合はこの限りではないが.こういうのを使いこなして街を歩いていると,少しだけその地に溶け込むことができたような気がして,嬉しい.
香港は国際金融都市なので,歩いている人たちの人種は多様だけど,それでもやはりアジア系が当たり前に多い.そしてアジア系の中で,それが香港人なのか日本人なのかなんて,正直良くわからない.そういう意味でも完全に街に溶け込んでいる.キューバではアジア人が少なすぎて目立ってしまい,「中国人?日本人?韓国人?」と聞かれまくり辟易としていたのだが,当然香港では全くそんなことは無い.
そうして伸び伸びと街歩きできるのは嬉しいのだが,その裏返しとして困るところもあって.トラムに乗っていたら突然おばちゃんに何か広東語で話しかけられたり――当然何を言っているかはわからない――,街頭でアンケートを集めているか何かを売っているかしているおばちゃんに広東語で話しかけられたり――当然何を言っているかはわからないし,アンケートなのか販売なのかもよく分からない――,お店に入ったら突然広東語で話しかけられたり――当然,以下同文――する.
ポカン,とした顔をしていると察して英語で話しかけてくれるか,そうでなければジェスチャーで何かを伝えようとしてくれるのだが,それでもなお広東語で何かを伝えようとしてくれる場合もあるので,これには参った.街に溶け込んでしまっているというのも考えものである.
その点,キューバは初手でスペイン語で話しかけてくる人は殆ど居なかったので楽だった.「街に溶け込んで悪目立ちしないけど,現地語が通じないのは明らか」という都合いい感じを求めてしまうが,さすがに贅沢すぎると言うものか.でも台湾は割とそうだった.何故か初手で「こんにちは」とか言われる.アレはアレで怖い.どうやって日本人だって見分けたんだ?
こんな感じだったので,さすがに「你好」くらいは言えるし,まずは現地で広く使われている言葉で話しかけるのがリスペクトというものだと思うのだが,なまじ「你好」なんて言ってしまうと最後,いよいよ現地民と見分けがつかずに広東語で会話を試みられてしまうので,「你好」は早々に封印した.元気よく「ハロー!」と言って外国人アピールしていく作戦である.香港は英語も公用語なので前述のリスペクト観点では特に問題ないものとすることにした.
近い内に中国本土や韓国にも行ってみたいと思っているのだが,その時も外国人と見分けてもらえるようにしたいところだが,果たしてどうやれば「あ,こいつ外国人だな?」と思ってもらえるかがわからない.顔見た瞬間「こんにちは」と声かけてきた台北の屋台のお兄ちゃん,何で一瞬で日本人と見抜いたのか,そのコツを教えてほしい.その特徴をこれでもかと誇張して東アジア各国を練り歩きたいので.